猫と暮らし始めると、多くの飼い主さんが直面するのが「避妊・去勢手術を受けさせるべきかどうか」という問題です。「かわいそう」「自然のままでいいのでは」と迷う声もありますが、実はこの手術は猫にとっても人にとっても、多くのメリットがあります。今回は、その具体的な利点について、少し掘り下げてご紹介します。
1. 予期しない繁殖を防ぎ、命を守るために重要です
猫は年に2〜3回の繁殖期があり、1度の出産で平均4〜6匹の子猫を産みます。外に出る機会がある猫はもちろん、完全室内飼いであっても、万が一の脱走などで妊娠してしまうケースもあります。
避妊・去勢をしていない猫の繁殖によって、不幸にも捨てられてしまったり、野良猫として過酷な環境で生きなければならない命が生まれてしまうことも。望まれない命を増やさないことは、飼い主の責任とも言えるでしょう。
2. 発情期のストレスを軽減し、猫にとっても快適な生活を
発情期になると、メス猫は大きな声で鳴き続けたり、落ち着きがなくなったりします。オス猫も、発情中のメス猫の鳴き声やフェロモンに反応し、家の中でそわそわしたり、脱走しようとすることもあります。
こうした行動は猫自身にとっても大きなストレスですし、夜中の鳴き声や家具の破壊など、飼い主にとっても負担になります。手術を行うことで、こうした発情に伴う行動やストレスを大幅に軽減することができます。
3. 将来の病気を予防する効果も期待できます
避妊・去勢手術は、猫の健康を守るためにも大きな役割を果たします。
- メス猫の場合:子宮蓄膿症、乳腺腫瘍、卵巣腫瘍などのリスクが大幅に下がります。特に乳腺腫瘍は、初回発情前に避妊手術を行うことで発症率が大きく減少するとされています。
- オス猫の場合:精巣腫瘍や前立腺疾患のリスクが減るほか、発情によるストレスやケンカによるケガも予防できます。
結果として、医療費の負担を減らし、猫の寿命を延ばすことにもつながります。

4. マーキングや攻撃的な行動の抑制にも効果的です
特にオス猫に見られる「スプレー行動」(尿をかけるマーキング)は、強いにおいがあり、家の中で繰り返されると大きなストレスになります。去勢手術を行うことで、この行動がかなりの確率で減少します。
また、発情中のオス猫同士のケンカも避けられるため、ケガや感染症のリスクも軽減され、より穏やかな性格になることが期待されます。
5. 地域猫活動や動物福祉の視点からも重要です
私たちが支援している地域猫活動においても、TNR(Trap・Neuter・Return=捕獲して不妊手術を施し、元の場所に戻す)という手法が主流です。この活動によって野良猫の数を増やさないようコントロールし、人と猫が共に安心して暮らせる街づくりが行われています。
避妊・去勢手術は、個々の家庭だけでなく、社会全体にとっても意義のある取り組みなのです。

最後に
避妊・去勢手術には、少なからず費用やリスクが伴うのも事実です。しかし、事前にしっかりと獣医師と相談をし、不安を解消したうえで手術を受けることで、多くのメリットが得られる選択であることがわかるはずです。
猫にとっても、飼い主にとっても、そして地域社会にとっても。避妊・去勢手術は、未来の安心と幸せを支える大切な一歩です。

